
※以下の文は仮訳です。書籍版とは異なる場合があります。
私はチンパンジーの研究をしているときに、雨林ではすべての生き物が互いにつながり合っていることを学びました。いかに動植物種の1つひとつが、生き物の織りなすタペストリーにおいて担うべき役割をもっているか。ある種が絶滅すると、そのタペストリーに1つ穴が開きます。あまりに引き裂かれてボロボロになると、生態系全体が崩壊するかもしれません。重要なのは、私たちも自然界の一員だということです。酸素、食べ物、水、衣服。すべてを自然界に頼っています。そして、これもボロボロに引き裂かれてきています。
今いる生物の中でヒトに一番近いチンパンジーをはじめとする他のすべての動物と、人間とを一番大きく隔てているのは、私たちが知性を爆発的に発達させたことです。動物にはかつて考えられていたよりはるかに高い知性があるものの、相対性理論を思いついたり、月面着陸を行なったりできた動物はほかにありません。あらゆる生物種の中で最も知的である私たちが、唯一のすみかを破壊していなければならないなんて、なんと奇妙なことでしょう。私たちの賢い脳と、詩的にいえば人間の心に住まわせている愛や思いやりとの間に、断絶があったようです。頭と心が調和して働くときにだけ、人間の真の潜在能力を獲得できるのだと思います。
私たちが解決すべき自業自得の問題はたくさんあります。そして、ポール・ホーケンが本書で大変な説得力をもって強調するように、これらはすべてつながり合っています。すべてを統合した形で理解し、解決する必要があります。貧困を軽減し、高所得国の持続可能でないライフスタイルに対処し、社会的正義を実現し、国民皆保険を提供し、すべての人が教育を受けられるようにしなければなりません。幸い、人々はこうした問題に革新的な解決策を見つけ出しています。これこそ、ポールが本書で紹介することです。
私は、数多くの過ちをじかに経験してきました。1960年に私がチンパンジーの研究を始めたとき、タンザニアのゴンベ国立公園は、赤道アフリカにわたって広がる森林の一部でした。1980年代半ばには、周囲をはげ山に囲まれた小さな森の、まるで島のようになっていました。人々は持続可能でない暮らしを送り、農地は酷使されて使い尽くされ、農業や木炭生産の場所をつくるために木々は伐採されました。人々は生き延びることに必死でした。そのとき私は気づいたのです。このようなコミュニティが環境を破壊せずに生計を立てる方法を見つける手助けができなければ、チンパンジーを保護することもできない、と。動物種を守りたければ、環境を保護しなければなりません。それには現地コミュニティの参加が不可欠です。もし人々が貧困の中に暮らしていたら、それどころではないでしょう。
ジェーン・グドール・インスティテュート(JGI)は、ホリスティック(全体論的)な地域密着型の保全活動「タンガニーカ湖集水域の再植林と教育(TACARE)」を開始しました。地元のタンザニア人を何人か選んで、彼らにゴンベ周辺の村々を回ってもらい、私たちからどのような手助けができるかを聞き取ってもらいました。村人の答えやニーズは明快でした。「もっとたくさんの食料を育てたい」「もっと健康と教育を享受したい」と。私たちは欧州連合(EU)から少額の助成金を受けて、化学物質を使わずに土壌の肥沃度を回復させる手伝いをしました。地元タンザニア政府と協力して、既存の学校を改善したり、村のクリニックを改良・新設したりしました。水管理プログラムや、アグロフォレストリー(森林農法)、パーマカルチャーを導入しました。地理情報システム(GIS)や衛星画像を利用して、村人たちが土地利用管理計画を作成できるようにしました。ボランティアがスマートフォンの使い方を学んで、村の保護林の健康状態を記録できるようにしました。奨学金を出して女児が中等教育を受けられるようにし、マイクロクレジットにより村人たち、特に女性が持続可能なビジネスを立ち上げられるようにしました。子どもに教育を受けさせたいが教育費が高いと思っている親たちに、家族計画の情報は歓迎されました。このように、TACAREは環境と社会の両面のウェルビーイング(*)を高めています。
今や地球上に79億人近くが暮らしています。世界の多くの場所で、限りある天然資源が、自然が補充する力が追いつかない速さで減っています。2050年には、推計人口が100億人にもなる可能性があるとされています。家畜の数も増えており、かつてないほど多くの土地や水を使い尽くし、大量のメタンガスを発生させています。さらに、人々が貧困から抜け出す中で、私たちの持続可能でない生活水準を彼らがマネしようとするのも無理からぬことですが、私たちはこれを変えなければならないと知っています。もしこれまでどおりのやり方を続ければ、未来は、……「暗澹(あんたん)」といっても過言ではないでしょう。
自然との新たな関係をつくり、私たちが生んでしまった問題に子どもたちが対応できるように態勢を整えなければなりません。環境教育を推進するプログラムはたくさんあり、ほかに社会的正義について論じるプログラムもあります。私は1991年に、環境面と人道面からの若者向けの運動「ルーツ&シューツ」(「根っこと新芽」の意味)を始めました。今では68カ国に、幼稚園から大学まで何千ものグループがあります。社会環境問題がつながり合っていることが理解できるように、各グループは「人」「動物」「環境」の3分野におけるプロジェクトを選んで参加することが求められています。メンバーは行動を起こすことにより、自分には変化をもたらす力があるんだと気づきます。そのことは、野生生物の取引、ホームレス、女性の権利、動物愛護、差別など多様な問題に共に取り組んでいる何千人もの若者に、力と希望を与えています。
希望をもてる理由が3つあります。1つめは、若者たちにエネルギーと献身的な取り組みが見られること。2つめは、自然にはレジリエンス(復元力)があり(ゴンベ周辺に森林が戻ってきました)、動植物種を絶滅から救うことが可能だということ。3つめは、どうすればもっと自然と調和した暮らしができるかを考えられる、人間の知性があること、です。
ポールは、いつものように誰にもマネできないやり方で、身から出た錆といえる社会環境問題に対し、最も重要な解決策を示しています。そして、こうした問題がいかに密接に関わり合っているかを示しています。本書『リジェネレーション 再生』は、有益な情報を包み隠さず提供し、もう遅すぎると考える悲観論者に反論するものです。ポールも私も心から信じています――私たちにはまだ時間があること、現実的な解決策があること、そして地球上で生命の気候の安定性を回復するために、私たちもあらゆる組織も解決策に着手し実施できることを。ヒトの学名「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」は、「賢い人」を意味します。この名を汚さないように取り組んでいきましょう。
*身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること